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糖尿病とは
糖尿病は「糖尿」という名前から、単に尿に糖が出る病気であるとまちがって理解されていることがあります。
「尿糖」は糖尿病の症状の1つではありますが、病気の本質ではありません。糖尿病で大切なものは「血糖」であり、糖尿病は血糖が慢性的に高くなる病気です。高血糖状態が長く続くとさまざまな合併症を起こして問題となるのです。
上のグラフは糖尿病患者さんと健康人の1日の血糖の流れを模式的に描いたものです。健康人(緑の線)ではご飯を食べた後にわずかに血糖が高くなりますが、1日を通して血糖値は100前後に安定していることがわかりますね。
一方、糖尿病患者さん(赤の線)では、朝におなかがすいているときは血糖がさほど高くなくても、食後は血糖が大きく上昇します。次の昼食前には血糖が下がりきらないため、昼食後には血糖がさらに上がっています。
このように糖尿病患者さんでは血糖の曲線が高いほうへシフトしています。
ちなみに血糖値が140~200mg/dlを超えると高すぎる血糖の一部が尿にもれ出てきます。それが「尿糖」です。ですから、朝食前の血糖が低い時間帯に尿糖を調べると、糖尿病患者さんでも尿糖が陰性になることもありますので、尿糖の有り・無しでは糖尿病は診断できません。
血糖値とは
血糖値とは、血液中に含まれる「ブドウ糖」という栄養素の量を測定した値です。
では、ブドウ糖はどこから来るのでしょうか?ブドウ糖は皆さまが毎日食べている食物から消化吸収されて体に入ってきます。食べ物にはタンパク質・脂肪・炭水化物という3大栄養素があります。
このうち、炭水化物というのがブドウ糖の元です。炭水化物はブドウ糖などの糖がたくさん鎖でつながれたような構造をしています。
糖が長くつながったままの状態では大きすぎて体に入ることができません。ですから人は食べ物(炭水化物)を歯でかみ砕いて、胃や腸の消化液で消化することで1つ1つのブドウ糖の坊やの状態にバラバラにします。
ブドウ糖の坊やの状態まで小さくなると腸を通して体の中に吸収することができるのです。
体の中に入ったブドウ糖は、血液の中に取り込まれて全身へ運搬されます。血液は心臓のポンプ作用によって体中をぐるぐると循環していますから、その流れに乗って全身へ運ばれるのですね。ブドウ糖は全身のさまざまな組織でエネルギー源として燃やされて使われています。
なぜ健康な人は食事をとっても血糖値がさほど上がらないのでしょうか?
これを理解するためには、「インスリン」という大切なホルモンについて勉強する必要があります。インスリンは糖尿病にとってはとても大切ですので、少し詳しく説明しましょう。
インスリンは皆さまの胃の後ろにある「膵臓」という臓器で作られています。
膵臓は膵液という消化液を作る臓器ですが、実はホルモンも作っている臓器で、膵臓が作っているホルモンの中でも大切なホルモンがインスリンです。インスリンの働きは上のマンガに示されていますが、簡単に言うとブドウ糖のガイド役なのです。
ブドウ糖が食事の後にたくさん血液中に吸収されますと、膵臓からたくさんのインスリンが血液中に分泌されます。ブドウ糖は血液の流れに乗って全身へ運ばれますが、エネルギー源として役立つためには人の体を作っている細胞という小さなお部屋の中に入って燃やされる必要があります。
細胞にはブドウ糖の入り口がありますが、普段は鍵がかかっていてブドウ糖一人では勝手に中に入れません。インスリンはこのドアの鍵を持っているので、ブドウ糖と一緒に血液の中を回りながら、この鍵を開けてブドウ糖を細胞の中に案内しているのです。
健康な人は、インスリンがきちんとブドウ糖を案内して細胞の中に導いているので、食事の後も血糖値が異常に上昇することはないのですね。
なぜ糖尿病では血糖値が異常に上がるのでしょうか?
一言で答えると、糖尿病患者さんでは「インスリンの作用不足」があるからです。
インスリンの作用不足には2つのメカニズムが知られています。
1つ目は上の図の左半分で説明している「インスリン分泌不全」です。これは、膵臓からのインスリンの分泌が悪くなってしまった状態を言います。この場合、案内してもらいたいブドウ糖の坊やはたくさんいるのですが、ガイド役のインスリンがちょっとしかいないため、案内してもらえないブドウ糖はいつまでも血液の中に残っていることになります。これがインスリン分泌不全による高血糖です。
もう1つは図の右半分で説明している「インスリン抵抗性」です。これは細胞のドアの鍵穴がさびついてしまった状態です。この場合はガイド役のインスリンはいるのですが、インスリンが鍵を開けようとしても錆びついているために鍵が開きません。ブドウ糖はやはり細胞に入ることができませんので、結局血液の中にたくさん残ってしまいます。これがインスリン抵抗性による高血糖です。
実際には、糖尿病患者さんは両方のメカニズムを併せ持っていることが多く、インスリンの出が悪くてさらに効きも悪くなっている患者さんが多いです。
糖尿病の分類と診断
糖尿病は実は1つだけの病気ではなくて、いくつかの病気を集めて糖尿病と言っています。糖尿病は大きく4つの種類に分類されます。
- 「1型糖尿病」は日本ではまれな糖尿病です。比較的若い人に発症することが多く、膵臓のインスリン産生細胞が壊れてしまうためにほとんどインスリンが出なくなってしまいます。このため、治療にはインスリン注射が不可欠の糖尿病です。
- 「2型糖尿病」は日本で多い糖尿病です。いわゆる生活習慣病の1つで、成人人口の8.3%が糖尿病と考えられています(参照元:平成28年「国民健康・栄養調査」)
- 3番目の糖尿病は原因が明らかな糖尿病を分類します。例えば、ある遺伝子の異常で生じる遺伝性の糖尿病や、関節リウマチや喘息の治療に用いるステロイドというお薬で生じる薬剤性の糖尿病などです。
- 4番目は妊娠糖尿病です。これは、妊娠期に初めてわかった糖尿病を指す言葉です。妊娠糖尿病は赤ちゃんのすこやかな発育のために特に厳格に治療する必要があるため、1つの種類として特別に分類されています。
さて、糖尿病の診断は血糖値(単位:mg/dl)で行います。健康な人でも血糖は食事によって変動しますので、血糖値の判断は空腹時の採血か食後またはブドウ糖負荷後の採血かで基準が異なります。正常型は空腹時血糖が110未満、ブドウ糖負荷後血糖が140未満です。糖尿病型は空腹時血糖が126以上、またはブドウ糖負荷後血糖が200以上です。両方に属さない血糖値は境界型と診断されます。
どうして2型糖尿病になったのでしょうか?
だれでも自分がどうして糖尿病になったのだろうと思うはずです。 実は2型糖尿病は1つだけの原因で起こるわけではなく、いくつかの原因が集まって糖尿病を起こしています。
「遺伝」は糖尿病の原因として確かに存在します。糖尿病患者さんの多い家系がありますし、皆さまの中にもご両親や兄弟に糖尿病がいる方がいらっしゃると思います。糖尿病になりやすい体質は遺伝するようです。また、ストレスなどの「外部環境」も発症に関係するようです。しかし、糖尿病は遺伝や外部環境だけで決まる病気ではありません。糖尿病のご家族がまったくいないし、ストレスもない方でも糖尿病になる患者さんはいらっしゃいます。
大きな原因は「生活習慣」です。現代の日本は飽食の時代で、冷蔵庫にはいっぱいの食べ物がつまっています。そして車社会に代表されるように、生活が便利になって体を動かさなくなりました。高カロリー高脂肪の食事をして、運動不足になると肥満が増加してきます。肥満は糖尿病の「母」であり、肥満者の割合は、男女ともこの10年ほどほぼ横ばいで推移しています。2019年の調査では日本人の「糖尿病が強く疑われる者」は約 1,000 万人であり、成人人口の12.1%が糖尿病となっています。(出典元:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果)
糖尿病になったらどうなるのでしょうか?
糖尿病の症状で特徴的なことは、「初期にはほとんど無症状である」ことです。このため、糖尿病患者さんの約半分が、きちんとした治療を受けていないと言われています。ご自分が病気であると自覚されないのですね。
でも、糖尿病は放置していると体を蝕んでいきます。症状がないから放置しても良いのではなく、症状がないうちからきちんと治療して、合併症を予防する必要があります。糖尿病には怖い合併症がたくさんあります。でも、心配しすぎる必要はありません。多くの糖尿病合併症は糖尿病になったばかりのころはほとんど進行していません。長い間、血糖コントロールが不良な状態を放置していると徐々に進行してくるのです。ですから、きちんと治療していれば合併症は防ぐことができます。
では、どんな合併症があるのか、次に見ていきましょう。
糖尿病の合併症は血管の病気です。
糖尿病で高血糖がずっと続いていると、血管がボロボロに傷んでしまいます。
細い血管(毛細血管と言います)が傷んで起こる合併症が糖尿病の3大合併症と言われるもので、
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病性腎症
- 糖尿病性神経障害
があります。神経障害の「し」、網膜症の「め」、腎症の「じ」の頭文字をとって「しめじ」を3大合併症として覚えてください。
また太い血管がやられる大血管症=動脈硬化症も糖尿病の重要な合併症です。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は日本人が失明する原因の中でも上位に入ります。
糖尿病網膜症は目の中の網膜がおかされる病気です。人間の目は左の図のような構造をしています。目をカメラにたとえると、網膜はフィルムに相当します。目の奥にある神経細胞がびっしりと並んだ膜です。網膜の神経細胞が目の中に入ってきた光の色や明るさを認識して、脳に視神経を介して光の情報を信号として送っています。それで、人間は目が見えているのです。網膜の神経細胞は生きていますから、活動するために酸素も栄養も必要です。網膜の神経細胞に酸素や栄養を送るために、網膜には網の目のような細かい血管:毛細血管が走っています。その毛細血管が慢性的な高血糖でつぶれてしまい、あるいはやぶけて出血をして目が見えなくなってしまうのが糖尿病網膜症です。
糖尿病網膜症はとてもこわい病気ですが、糖尿病になってすぐに失明するわけではありません。5年~10年と長い間糖尿病のコントロールを悪いままで放置していると徐々に進行します。また、糖尿病網膜症の特徴として、かなり重症に進行するまで視力は正常に保たれます。糖尿病と診断されたら、眼科に網膜の状態を見てもらいましょう。そして、少なくとも1年に一度は眼底の検診を受けましょう。
現在は網膜症の眼科治療も大変進歩していて、きちんと治療を受ければ多くの患者さんが失明の危険から逃れることができます。
糖尿病腎症
糖尿病腎症は尿をつくる腎臓がおかされる病気です。
腎臓は右の図のようにお腹の中に左右2つあります。腎臓の働きは血液をきれいにすることです。皆さまが生きていくためには体の中でいろいろな代謝が行われ、どうしてもごみが作られてしまいます。ご家庭でも生活するうちにごみがでるのと似ています。体の中のごみは血液の中を運ばれてごみの処理工場である腎臓で処理されます。腎臓では血液の中のごみと必要な物をえり分けてごみだけを尿に捨てています。ごみを選別するために腎臓には毛細血管でできたフィルター構造があり、その構造を糸球体を呼んでいます。慢性的な高血糖でこの糸球体の毛細血管がつぶれて尿をつくる能力がなくなってしまうのが糖尿病腎症です。
糖尿病腎症が進行すると透析か腎臓移植しか治療法のない透析療法期=末期腎不全期になります。透析療法は患者さまにとって時間的にも経済的にもとてもつらい治療になるので、なるべく腎臓を守って末期腎不全にならないようにしたいものですね。
糖尿病腎症は非常にゆっくりと進行し、透析にいたるまで15~25年の時間がかかります。早期のうちに腎症を発見し、進行を抑制することがとても大事なのです。早期の腎症は自覚症状はまったくありませんが、尿に微量な蛋白が出現します。これを微量アルブミン尿と呼びます。蛋白は体にとって大事な栄養素の1つですから、尿に捨ててもらっては困るのですが、腎症におかされると次第に尿蛋白が増加してきます。多量の蛋白尿が出ると血液の蛋白が少なくなってむくみが出現してきます。むくみが出る時期はかなり腎症が進行してからです。さらに体にごみがたまってくると腎不全期となり、疲れやすくなったり、食欲不振、頭痛や貧血などの症状が出現します。そして最終的には透析か腎臓移植をしないと命が危なくなります。
腎症の進行を抑制する大事なポイントは生活習慣病の管理で、
- 血糖コントロール
- 血圧コントロール
- 脂質コントロール
- 適正な体重維持
- 禁煙
です。蛋白尿が出始めたら、十分な生活習慣病の管理をしてください。
糖尿病神経障害
糖尿病神経障害は慢性的な高血糖で神経がおかされる病気です。
神経にはいろいろな種類があるのですが、糖尿病でおかされやすい神経は感覚神経と自律神経です。感覚神経は、痛み・温度・触れている感じ・振動などを脳に伝達する働きをしています。自律神経は、皆さまが意識をしない状態でも自分で働いている神経系であり、心臓の拍動・血圧・消化管の運動・発汗などを管理しています。
神経障害は左右対称に足先や足底からジンジン・ピリピリする痛みやしびれ感で始まります。また、足の裏に紙が張り付いているような違和感・寝ていてよくこむらがえりがおこるなどの症状もあります。これらは、神経障害におかされた神経が異常興奮して自覚する症状です。さらに進行すると、神経が脱落してしまいますので足の感覚がなくなってしまいます。こうなると、足にけがをしても痛みを感じないため、けがの部分からバイ菌が進入して足潰瘍や足壊疽をおこす危険性が出てきます。糖尿病性足壊疽は糖尿病患者さんが足を切断する原因となるとてもこわい病気です。足の感覚が麻痺してきた場合は、足の病気・けがに十分注意する必要があります。このような足をいたわる治療を「フットケア」と呼んで糖尿病治療ではとても重要視しています。
大血管障害=動脈硬化症
糖尿病にとってもう1つの大事な合併症が大血管障害=動脈硬化症です。
動脈硬化症とは、血管の壁にコレステロールなどが沈着して次第に血管が硬く狭くなってくる病気で、最後は血管の中に血のかたまり:血栓ができて血液の流れがせき止められてしまう病気です。動脈硬化症が大事な血管にできると重大な病気を引き起こします。脳血管に動脈硬化症が起こると脳梗塞の原因となり、心臓の血管に動脈硬化症が起こると心筋梗塞の原因となります。脳梗塞や心筋梗塞は日本人の死因としても重大な病気ですね。
動脈硬化症は糖尿病だけで起きる病気ではありません。糖尿病以外の大事な原因として、高コレステロール血症などの脂質代謝異常・高血圧・肥満・喫煙などがあります。その中でも、糖尿病であることは動脈硬化症のリスクを約3~4倍にします。境界型糖尿病ですら、動脈硬化症のリスクは約2倍となっています。したがって、糖尿病の患者さんにとっては、動脈硬化症を防ぐことも大事な治療目標なのです。
動脈硬化症にならないようにするには、総合的なリスク管理(=生活習慣病管理)がとても大切です。すなわち、血糖コントロールはもちろんのこと、コレステロール値や血圧にも注意をはらい、体重を適正に保ち、さらに禁煙することもとても大切なのです。
糖尿病の治療目標
糖尿病患者さんにとって最終的な治療目標は、「たとえ糖尿病であっても合併症を起こさずに、健康で天寿を全うする」ことだと思います。
この目標のためには、繰り返しになりますが、総合的なリスク管理(=生活習慣値病管理)が大切です。上の表はそれぞれの管理目標をまとめたものです。まず、血糖コントロールは正常に近いほど良いのですが、低血糖などのリスクが高い場合は無理な目標は危険です。できるだけ良好に保つようにしつつも、個人個人で無理のない目標を設定しましょう。一般的な合併症予防のための目標としては、HbA1c値7%未満が良いでしょう(詳しくはこちら)。次いで体重ですが、肥満は糖尿病の原因にもなり、肥満の患者さんでは体重を減量することで糖尿病は改善されます。できるだけ、適正な体重を維持するように心がけましょう。また、最近は健康に特に良くない内臓肥満を簡単に見分ける方法として、おへそ周りの腹囲を測定することが勧められています。裸になっておへその高さで腹囲を測定して、男性で85cm、女性で90cm以上あるようなら内臓肥満の疑いがありますので要注意です(詳しくはこちら)。また、生活習慣の中では、喫煙されている方は強く禁煙が勧められます。
糖尿病の治療の基本
糖尿病の治療の基本は何と言っても「食事療法」と「運動療法」です。これは、現在の糖尿病の主な原因が、生活習慣の乱れであるためです。糖尿病の原因が生活習慣にあるのですから、まず原因を正すことが大切です。そして、食事・運動療法を十分に行ってなお血糖管理が不十分な場合に「薬物療法」が強力な武器になります。現在ではさまざまな薬物療法が発達しています。しかし、どんなに良い薬であっても、食事・運動療法が不十分な状態では、十分な薬の作用を発揮できません。糖尿病は薬によって改善する病気ではなく、患者さん自身が努力して生活習慣を改善して治す病気なのです。薬はあくまでも追加的な治療手段だと思っていただきたいです。
糖尿病の食事療法とは栄養バランスのとれた健康食のことです
糖尿病では、決して食べてはいけない食品があるわけではありません。糖尿病になったとしても、あらゆる食品を食べることは可能なのです。ただし、食品のバランスと量を考えて摂取する必要があります。
現代の日本人はかつてない飽食の時代を生きています。皆さまの家の冷蔵庫にも食品がたくさん詰まっていて、町では気軽に高カロリーのハンバーガーが買えるようになりました。もはや飢えに困るようなことはなくなりましたね。でも、よく考えてみるとわれわれ人類が本当に飢えから解放されて飽食の時代を生きているのは、400万年という長い人類史上初めてのことなのです。ですから、皆さまの体は祖先から飢えに強い遺伝子をたくさん引き継いでいますが、飽食にはまだまだ慣れていないと考えられます。
糖尿病の食事療法の考え方は本当は糖尿病患者さんだけに限ったことではなく、現代人全体にとっても大切なことなのです。その人が本来必要としている体格や生活強度にあった量の食事を、栄養の偏りなくバランスよく食べていただくことを目標にしています。
いわば現代人のための健康食といえるでしょう。
糖尿病の運動療法はインスリンの働きを助けます
もうひとつの基本療法の柱が運動療法です。運動療法はインスリンの働きを助けて血糖を改善する作用があります。
糖尿病の運動療法で重要なポイントは、「楽しく」「長続きできる」運動であることです。運動選手になるための運動ではないので、きつく苦しい運動は必要ありません。運動しながらニコニコと笑っていられるぐらいの余裕がむしろ大切です。例えば、「散歩」なども立派な運動です。運動と食事のタイミングですが、できれば食後のほうが血糖改善作用も良く、低血糖になりにくいのでお勧めです。運動療法は継続することも大切です。科学的にも運動療法の作用は3日たつと元に戻ってしまうことがわかっています。3日坊主ではだめだということですね。忙しい方でも週に3日は運動ができる日を作っていただきたいと思います。
運動療法は楽しく、長続きできるものを自分の体力に合わせて実行してください。楽しくなければ継続することは難しいですよね。
糖尿病の薬物療法は強力な助っ人です
日々、新しい糖尿病薬の開発が進められています。ちょっと前に比べると、糖尿病の薬物治療の幅がずいぶんと増えました。一方、注射薬もインスリン注射だけでなく新薬が開発され、まさに日進月歩の状態です。これらは強力な糖尿病治療の助っ人です。皆さまが十分に食事・運動療法を守っても血糖が改善できないとしたら、きっと強力な助っ人が手助けしてくれることでしょう。
しかし、お薬はわれわれの味方ですが、糖尿病を根治させる魔法の薬はありません。頼りすぎてはいけませんね。
糖尿病治療中の突発的なアクシデントについて
日ごろは十分に良好にお付き合いできている糖尿病でも、時としてアクシデントが起こるとコントロールが乱れがちです。
ここでは、代表的な2つのアクシデント:シックデイと低血糖について勉強しましょう。
シックデイとは英語で「病気の日」という意味です。発熱や下痢・嘔吐などで食事が十分にとれなくなった状態を言います。
低血糖とは治療行為によって過剰に血糖が低下した状態を言います。
シックデイについて
シックデイとは治療中に発熱や下痢・嘔吐などで食欲がなくなり、食事が十分にとれなくなった状態を言います。このような場合、普段は安定している糖尿病でも急に血糖が乱れることがあり、注意が必要です。
まず、どうしたらよいかわからないときは遠慮なくクリニックに問い合わせてください。
基本的な注意事項としては、なるべく脱水にならないように、食事が入らないときでも水分だけは十分にとるように注意してください。
そして、なるべく食事はぬかないようにしましょう。絶食にすると、糖尿病患者さんの場合、体で好ましくない無理なエネルギー代謝が生じることがあります。
とはいっても、食事が取れないというときはどうしましょう?まず、2回続けてまったく食事が取れない場合は念のためクリニックを受診してください。同様に、2日続けて高熱が出る場合もクリニックを受診しましょう。早めに受診されるほうが病気の治りも早くなります。
シックデイの時の糖尿病薬の使用はどうしたらよいでしょう?これは、ケース・バイ・ケースなのですが、原則として、経口糖尿病薬は食事がとれないときは内服中止でよいでしょう。インスリン注射の場合は、血糖を自己測定できる方が多いでしょうから、血糖を測定してから判断しましょう。血糖を測定してみると、食事をとっていなくてもストレスで意外と200mg/dl以上の高血糖になっていることもあります。この場合は少量のインスリンを使う可能性がありますので、クリニックに尋ねてください。
低血糖について
低血糖とは経口糖尿病薬やインスリン注射などの治療行為によって過剰に血糖が低下した状態を言います。
まず、ご自分の治療が低血糖を起こす可能性があるものかどうか、それを知っておきましょう。低血糖を起こす可能性がある治療は、飲み薬では特にスルホニルウレア薬(その他、即効型インスリン分泌促進薬)を飲んでいる場合だけであり、そのほかの治療薬単剤のみでは、原則低血糖は起こらないと考えられています。インスリン注射をされている場合は、どのような注射でも低血糖のリスクがあります。
低血糖とは血糖が70mg/dl以下ぐらいから起こり始める不快な症状です。確かに低血糖は薬物治療のこわい副作用ですが、低血糖を恐れすぎて高血糖を放置することもいけません。ですから、低血糖のことはある程度は予測しておきながら、注意しながらも十分な血糖コントロールを行う必要があります。
それでは、低血糖にはどのように対処したらよいのでしょうか。まずは低血糖になるとどのような症状が現れるのかをよく覚えておきましょう。低血糖の起こりはじめには急に強い異常な空腹感・脱力感・冷や汗・動悸・手足のふるえなどが出現します。それを少し超えると、目がちらつく・頭痛がする・ボンヤリする・ふらつくなどの症状が出現します。ただし、これらの症状は順序良く出現するわけではなく、かなり症状には個人差があります。低血糖症状を自覚できるときは、ブドウ糖を内服するなどの血糖を上げるようにする処置で低血糖症状はすみやかに消失します。
しかし、それ以上の重症の低血糖になると、意識を失って倒れたり、痙攣発作を起こしたりします。こうなると糖分を摂取することができませんので、ブドウ糖の注射などの処置が必要です。万が一のために、低血糖が起こる可能性のある治療中の方は、周りの人に自分が糖尿病であり低血糖になる可能性があることは隠さないで話しておいた方が良いでしょう。また、旅先などでの低血糖発作を考えると、胸ポケットやハンドバックに治療内容がわかる糖尿病健康手帳や糖尿病であることを示すカードなどを入れておくことも防護策になります。